キャバクラ、違反横行 給与未払い訴え

キャバクラ、違反横行 給与未払い訴え、団体交渉 勝ち取った35万円
朝日デジタル2015年9月25日5時0分

拡大する店が組合員を不当解雇したとして、団体交渉に応じるよう拡声機で訴えるキャバクラユニオンのメンバー=東京都内
女性が働いていたキャバクラの給与明細。ヘアメイク代などとして引かれた「厚生費」は、「店が負担すべき」として返還された(画像の一部を加工しています)
 ドラマでも取り上げられ、華やかに映る「キャバクラ」。だが、職場として眺めると別の顔も見えてくる。給料の未払いや違法な控除など、労働のルール違反が横行している。相談をたどると、「生活苦」も見え隠れする。この夏、ある団体交渉を追った。
 6月下旬の夕方。1人の女性(29)が、千葉県内のキャバクラに向かった。3月、結婚と妊娠を機に「辞める」と告げた元職場だ。その時店長は「それなら1~2月の給料は払わない」として、約20万円を払わなかった。女性は、1人でも入れる労働組合キャバクラユニオン」のメンバー5、6人と合流し、店のドアを開けた。出てきたのは当の店長だった。
 《ユニオン(ユ) 未払い分、用意していますか》
 《店長 不良退店扱いなので、罰金として引いた》
 《ユ それは労働基準法に基づいた罰金ですか》
 《店長 とにかく支払う気はない。このままだと営業妨害になるので》
 20分ほど押し問答が続き、店の責任者を名乗る別の男性が現れた。「本当にこの人が働いていたか調べるから」と言うと、女性は「あなたに会ったことがあります」と抗議。男性は、事実関係を調べるので4日後にまた来るよう告げた。
 だが、指定した日時に行くと、責任者は「話すことなんてない。未払いなんてないから」と言い放ち、追い出そうとした。組合員が「調べるって言ったでしょ。団体交渉なので、使用者は応じる義務がある」と抗議すると、責任者は「もう出て行きなよ」と吐き捨て、110番通報した。警察官が駆けつけると「これ営業妨害だよ」と訴えた。
 警察官は最初、話し合いの打ち切りを促した。だが、面会を約束していたこと、未払い賃金があるとわかると、やりとりを見守った。責任者は、「1週間後、店長をそちらの事務所に行かせる」と、交渉に応じる姿勢を見せた。
 そして1週間後。店長は当日になって「結婚することになった。家族間のあいさつがあるから行けない」と告げた。ユニオンが「来られるまで待つ」と応じると、根負けしたのか、店長はその3時間後、「未払いは確かにあった。今日はこれで解決してほしい」と現金10万円を持って現れた。
 この日、店長は残りの支払いにも応じた。さらに、源泉徴収票を出すよう求めると、「納税していない」。税金名目で給料の10%を引き続けてきた分も、返すことになった。深夜の割増賃金の未払いも含め、返還総額は35万円になった。
 ■少ない収入、潜む貧困
 こうした相談例は、毎週のように寄せられる。店が話し合いに応じなければ、店の前で拡声機を使って訴えたり、ビラ配りをしたりして交渉を促す。
 ユニオンの布施えり子執行委員(34)によると、店側は、暴力団との関係をちらつかせたり、日ごろから「ブス」などと暴言を浴びせ、自尊心を失わせたりして諦めさせるという。給料の相場もわかりにくく、相談に至らず泣き寝入りする女性がほとんどとみる。
 キャバクラには、もう一つ、見過ごせない問題があるという。貧困と結びつくケースが多いことだ。時給が2千円以下の場合もあり、1日で1万円稼げればいい方だという。週2、3回の勤務では手取りが10万円に満たないことも多い。
 これまでの相談では▽大学の学費が払えず働いたが、給料未払いで退学した▽ネットカフェで暮らしている▽1千円の組合費も払えない――、といった例がメールや電話で寄せられた。直接会うに至らなかった場合もあり、その後どうなったかは分からない。
 実際、冒頭の女性も、日中は都心の会社で派遣社員として働いていた。月収は16万円ほど。生活費が足りず、時給2500円で週末にキャバクラで働いた。
 布施さんは「相談者の8割以上が貧困だ。腎臓や肝臓を壊しても、労災認定も失業保険もない。履歴書にも空白期間が生まれがちで、転職しにくくなる実態もある」と話す。(疋田多揚)
 
 ■キャバクラユニオンに寄せられる相談事例
・「辞める」と伝えると、前月や当月分の給料が払われなくなる
・遅刻すると罰金を科す
・主に店で負担すべき経費を、「ヘアメイク代」「送り代」「厚生費」として一方的に給料から差し引く
・給料から税金が引かれすぎている